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JOURNAL

April 27, 2020

薬剤師さんに聞く  天然保湿因⼦を増やす“ヘパリン類似物質”について教えて!

保湿効果である“ヘパリン類似物質”が⼊った化粧品が注⽬されています。

でも、本当のところ、どんなものなの? 美容効果を望むとしたらどんなものを選んだらいいの?

そんな様々な疑問について、薬剤師の三上彰貴⼦さんに答えていただきました。

 

⼈間の⾎管の中で ⾎液をサラサラにする ヘパリン

 

ヘパリン類似物質”という名前を聞いたことがありますか?

ヘパリン”って何なのかわからないうえに、“類似物質”ってつくのはちょっと不思議。それはどんなものなのか、どうしてそんな名前なのか、薬剤師の三上彰貴⼦さんにお聞きしました。

「ヘパリンというのは、⼈間の体内にある物質です。主に⾎管の中で、⾎液を固めないための働きをしています。この物質が発⾒されたのは 1916 年。⽝の肝臓から⾎液凝固を阻⽌する物質として分離したことから、ギリシャ語で肝臓を指す”ヘパリン”と名付けられた そうです」

この”ヘパリン”に似た構造を持つ成分が、”ヘパリン類似物質”。

「ヘパリン類似物質を含む医薬品には、⾎⾏を促進や保湿作⽤が認められています。そのため医療現場では、アトピー性⽪膚炎などの患者さんの⽪膚の保湿に処⽅されたり、⾎⾏ 促進をすることから⽕傷痕(ケロイド)の治療に使われたり、⾎液をサラサラにすることから⾎腫の予防などに使われています」

1990 年には「⽪脂⽋乏症」の薬として承認され、乾燥肌や敏感肌に⻑く使われ続けてきました。 医家向けや OTC 薬(市販薬)としては、この”ヘパリン類似物質”を 0.3%配合しているものが医薬品として厚⽣労働省に認可されており、薬⽤クリーム、薬⽤ローションなどに使 われています。

実際に、医療現場で乾燥肌に処処⽅されるのは、ヘパリン類似物質や、プロペト(ワセリンの⼀種)などが代表的です。

 

この”ヘパリン類似物質”が、ニュースとして⼤きく取り上げられたことがあります。 2017 年 8 ⽉末に、朝⽇新聞が「2014〜2015 年度の医療機関におけるヘパリン類似物質の処⽅が⼤幅に増えている」と投げかけた記事によるものでした。

「医療機関においてヘパリン類似物質の処⽅量が増えたのは、webでの⼝コミや⼥性誌などで、『何万円もする⾼級保湿クリームや美容液を買うよりも、処⽅してもらったヘパリン類似物質のクリームの⽅が安価で効果がある』と過剰な表現で書かれて誤解を⽣み、広がっていったせいではないかと⾔われています。実際、美容クリームの内容は不明ですが、あくまでもヘパリン類似物質の医薬品の効果は乾燥肌に対する保湿作⽤とケロイド症 の治療が主です」

もしも美容⽬的のためにヘパリン類似物質が保険で処⽅されているのであれば、国⺠皆保険がさらに危うくなる……そんな警鐘を鳴らす記事だったわけです。

ヘパリン類似物質⼊り OTC 薬の選び⽅と使い⽅

 

保険を使わなくても、OTC 薬(市販薬)で”ヘパリン類似物質”を 0.3%配合しているクリームやローションがあります。「これらは医家向けと同じ配合ですので、保湿効果が⼗分あります」と三上さんは⾔います。

「ヘパリン類似物質は、⽔と親和性があり、⽔分を引き寄せてそれを保ち続けるという働きがあります。また、細胞間脂質を整え、⽪膚のバリア機能を⾼めるため、⽪膚(⾓質層)の中にアレルゲンや細菌が⼊りにくい肌になります。」

「また、ヘパリン類似物質は、NML(natural moisturizing factor)=天然保湿因⼦を増やす効果があるといわれます。天然保湿因⼦というのはたんぱく質のアミノ酸からできています。そのため、化粧品でヘパリン類似物質を使うだけでなく、肌のコラーゲン合成やNMLを増やすためにも⾁や⿂などのタンパク質を⾷べることも⼤事です。これらのヘパリン類似物質の保湿作⽤から、乾燥による肌荒れ、ガサガサ肌の改善が期待できます。

 

ヘパリン類似物質が含まれている医薬部外品の化粧品(薬⽤化粧品など)はいろいろありますが、どんなものを選べばいいのでしょうか?

「まず、塗り⼼地や使⽤感で選ぶことをおすすめします。保湿はしても伸びがよく、べたつかないものが良いと思いますが、⼀度試してみて塗⼼地やその後の使⽤感が良い物を選ぶと、ストレスなく使い続けられますね」

乾燥がひどいなら、クリーム状になったものを。

「ヘパリン類似物質で保湿したところを油性のクリームでフタをして⽔分を逃さない…… というイメージです。また、他に何が加えられているかを確認してください。グリチルリチン酸が含まれていたら、抗炎症作⽤がありますので、ニキビの炎症や肌荒れが気になる⽅に。ヒアルロン酸やコラーゲンが含まれていたら、より肌密度を整えることが期待でき るでしょう。そのように、表⽰を確認しながら、今の⾃分が必要としている効果の効能があるものを選ぶといいでしょう。

ヘパリン類似物質の医薬品は、乳幼の保湿に良く処⽅されており⻑期的にも⽤いられている安全性の⾼い成分です。

ただ、本当にまれですが、発疹やかゆみがあったという症状の報告があるそうです。

「化粧品などでは、ヘパリン類似物質と⼀緒に⼊っている他の成分が作⽤する場合も考えられますので、発疹やかゆみ、かぶれなどが起こったら、すぐに医師や薬剤師にご相談ください。」

 

使い⽅で注意することはありますか?

「保湿をするには 1 ⽇ 1 回より、2 回つけたほうが保湿効果が⾼いという研究がありま す。1 ⽇ 3 回は、2 回と効果の差はそれほど変わらなかったようです。できれば朝と夜の 2 回塗るといいでしょう。また、アルコール消毒や、⾷器⽤洗剤などで⼿指の脂分をとってしまうようでしたら、その都度塗るといいでしょう。どんな薬でもそうですが、使⽤法を間違えないように、説明書をよく読んでからお使いくださいね」

正しく使って、特に成分に過敏反応がなければ、安全性の⾼い成分です。気になるシワやたるみには、乾燥が⼤敵です。ヘパリン類似物質などで⽪膚を保湿して、乾燥によるしわや肌荒れが⽬⽴たない肌になれるといいですね。

 

 

 

取材・監修 三上彰貴⼦さん/薬剤師。外資系製薬株式会社勤務後、慶應義塾⼤学にて MBA 取得。医療分野でのコンサルティングやマーケティング調査、講師としての活動も⾏う。

※ヘパリン類似物質の医薬品としての効能効果は、「ヒルドイド®(マルホ株式会社)」 の添付⽂書及びデータを⽤いています。

 

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